池袋の女

 西田佐知子の東京ブルースを聴いていたら、大学生時代に池袋で遭った女を

思い出した。撮影編集プロダクションのアルバイトの口があったので、池袋のその

住所に行こうとしていた。

 当時、そこは夜であれば近づきたくない場所だった。夏の昼前にそのあたりに

着いたが、同じような汚い雑居ビルばかりで、場所がわからない。うろうろして

いると、30前後の女が近づいてきた。やせている。

 好奇心旺盛だった当事の俺も引いた。昨夜から落としていない化粧。うつろな眼。

おぼつかない足取り。タバコの火を貸してほしいという。マッチで火をつけてやり、

日陰の階段の入り口に二人とも腰を下ろしてタバコを吸い始めた。よく見ると美人

だったことがわかる。

 タバコ1本の間の物語。事情があっての水商売。男にだまされ体を売るように・・。

クスリで体がボロボロ・・・。


 俺が探していたのは撮影編集プロダクション。やっと部屋を見つけ話を聞けば、

結婚式専門。大手のプロダクションを飛び出したのはいいが、食うために精一杯

・・・。今の俺なら感じ方も違ったろうが、その志の低いことに幻滅。

 外に出るとくだんの女の影なし。今、生きていれば60前後だろうが、あの調子

だと40歳までには死んでいるだろう。